視察報告(釜石市)
先週、5月16日(金)に岩手県釜石市へ視察に行って参りました。

目的は、2019年に開催されたラグビーワールドカップの開催地の一つである『釜石鵜住居(うのすまい)復興スタジアム』について、2025年に予定されている民間委託に関するサウンディング調査とその経過を把握することです。
2011年、釜石市は東日本大震災に襲われ、波の高さは9〜19メートルに達し、町は一瞬で津波に飲み込まれ、学校の校舎も2階まで浸水しました。

震災後、町は瓦礫の山に囲まれ、人々は絶望の淵に立たされました。そんな中、住民たちのかすかな希望の光となったのが、釜石市で長年培われてきたラグビーの輝かしい歴史でした。そこで、復興のシンボルとして「2019年、アジアで初開催されるラグビーワールドカップを釜石市で!」という市民たちの願いが生まれました。
震災後から誘致活動を行い、2015年に開催都市に選定され、2018年にはスタジアムが完成。2019年には夢が現実のものとなり、フィジー代表 vs ウルグアイ代表(27対30)の試合が開催されました。一方、カナダ代表vsナミビア代表の試合は台風19号の影響により中止となりましたが、開催された一戦は市民にとって大きな励みとなりました。(カナダ vs ナミビア戦は現在も釜石市での試合を現在も模索中。2035年に予定のワールドカップを日本で行う事も検討されており、その時に釜石市にて対戦の可能性もあり)
しかし、大会が終わると、スタジアムの維持管理が新たな課題となりました。そこで導入されたのがサウンディング調査(行政が事業の企画段階で民間事業者の意見を聴取する手法)です。
主な経過
- 2015年:ラグビーワールドカップ開催都市に選定
- 2018年3月31日:釜石鵜住居復興スタジアム 完成
- 2024年2月:サウンディング調査 実施・公表・募集開始
- 2024年3月21日:現地見学会・事業説明会(5社6名が来庁)
- 2024年7月5日:2社よりサウンディング最終申込受付
- 2025年3月25日:スタジアム運営委員会にて調査結果共有(委員長・アドバイザーより)
- 2025年3月31日:今後の運営方針決定・サウンディング調査結果公表
調査結果と対応
サウンディングにより提案があった2社について:
- 1社目は、公募設置管理制度(Park-PFI)を活用した提案で、市にとって理想的な内容でした。しかし、運営法人の設立など準備に3年ほどを要し、スケジュールが合わず、個別対談を2回行った末に断念。
- 2社目は、Park-PFIでは採算が合わないとし、指定管理者制度での運営を提案。また「コミュニティ・コンソーシアム」として利活用のチームを結成する構想を提示。しかし、指定管理料が市の想定を上回り、個別対談を4回実施した末に断念。
結果として、2社からの応募はあったものの条件が合わず、市は2028年(令和10年)まで直営での運営を継続する方針となりました。
所感
袖ケ浦市でも臨海スポーツセンターのサウンディング調査を実施しており、他自治体の成功事例を参考にしたいとの思いで視察に訪れましたが、現実の厳しさを痛感しました。
釜石市の人口は約3万人。ラグビーという、まだ日本ではマイナースポーツの枠を出ない競技で、「稼ぐモデル」を構築することの難しさが浮き彫りになった印象です。
一方、同じ岩手県内の紫波町(人口約3万人)では、「岩手県フットボールセンター(サッカー場)」を整備し、岩手県サッカー協会と20年契約を締結。年間300万円の賃料を得て、練習や試合などで年間6万人が訪れる施設の運営に成功しています。さらに、町が出資した特別目的会社が民間金融機関から融資を受け、テナント運営も継続しています。
釜石市で伺ったところによると、スタジアムの年間入場料収入は約500万円。一方で、メンテナンス等の管理支出は約4,000万円にも及ぶとのことでした。
そもそもラグビーの知名度向上や定期的な大型大会の開催など、集客力の強化が不可欠であり、長期戦略として「ラグビー人気と収益の上昇が見込めるタイミング」が令和10年(2028年)と判断しているのかもしれません。
私自身も高校・社会人とラグビーに関わってきた一人として、今後もこのスタジアムの行方を応援し、見守っていきたいと思います。

