【スイス視察報告】⑥〜スイス・ザーネンの木造銀行本店視察〜

今回視察したのは、スイス・ザーネンに新設された木造の銀行本店ビルです。この建物は、地域資源を最大限に活用し、環境・経済・社会の持続可能性を追求した先進的な公共建築です。

元々市内中心部にあった旧本店は、2005年の洪水被害により改修が必要となりましたが、法的な制約から断念を余儀なくされ、新たな立地での建設が決まりました。2019年に着工し、2年で入居を実現。建設には徹底した地場産木材の活用が図られ、1,200本(約2,800㎥)の木材を使用。外装にはトウヒ、構造材にはタモが使われました。

設計は地元ルツェルンのザイラー・リンハルト設計事務所が担当し、銀行側からは以下の要望が出されました:
・モジュール構造で柔軟性があること
・高品質で機能的な設計
・顧客エリアと業務エリアを分離
・カフェテリアは1階に配置し、外部開放も想定
・将来的な拡張余地の確保
・地域のアイデンティティを表現する建築
建物は耐震性を高めるために中央部をコンクリートコア構造とし、それ以外はすべて木造。床面積は約9,000㎡で、最大160名の職場として設計されています。持続可能な調達の観点から、工事の70%は20km圏内の業者に発注され、地域経済の活性化にも貢献しています。

また、再生可能エネルギーも積極的に導入。屋根には太陽光パネルを設置し、地下水を熱源として利用。購入電力は100%水力発電由来です。さらに、従業員用の駐車場を設けず、公共交通や電動モビリティ(電動自転車・EV)を活用する「モビリティコンセプト」を導入。週1回のホームオフィス制度も推進されています。

この建物はスイス国内の木材利用促進やCO₂削減のモデルとして高く評価され、複数の建築賞や環境賞を受賞しています。パッシブハウスの基準こそ満たしていないものの、当該州の厳格な省エネ基準に適合しており、環境配慮型の現代木造建築として極めて高い完成度を誇ります。

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