【スイス視察報告】⑧〜ルツェルン周辺のイノベーティブな木造省エネ中層建築〜

■ 概要
ホルフ村に位置するZEB(ゼロ・エネルギービル)集合住宅「シェアラウム」は、元シェアホルツバウ社長ヴァルター・シェア氏が主導した全13戸+オフィス併設の木造省エネ住宅です。建設・設計・運用全てにおいて、持続可能性と省資源性、合理的なルール設計を徹底し、従来の木造建築の限界と常識に挑戦しています。

■ 建築思想と設計手法
設計思想は「限界を知り、自分の世代でできることを次世代へ」というヴァルター氏の哲学から始まっています
設計ルールは空間グリッド(3.5m × 3.5m)を基本とし、柱・梁・桁の最小単位で建築。過度な設計家の要望は排除し、建主側が明確な優先順位(コスト・エコロジー・美観)を示す方式。

「ゲームのようにルールを明確にし、コストと設計のバランスを保つ」「多様な意見を採り入れすぎると質が落ちる」という考えが建築方針に徹底されています。

■ 空調・設備技術(ケーゲルシステム)
この住宅の最大の特徴の一つが、ケーゲル氏による独自の冷暖房・換気システム(APF7)の採用です。
▶ 空気は「物質」として扱う哲学
空調はエアコンではなく、微細な空気の対流と表面蓄熱によって行う。
蓄熱体は壁、床、家具など全ての表面であり、それらが室内の熱バランスを担保。
床冷暖房や輻射パネルは未使用。必要最小限のエネルギーだけで運用。
▶ 空調システムの仕組み
中央ユニット(キッチン・浴室一体)が冷暖房・換気の中枢。
26℃の温水(または水)を利用した低温循環方式。
換気ファン+熱交換器で静かに、かつ不快感なく空気を循環。
上下の温度差は最大でも0.5℃。非常に均質な空間を実現。
採熱管を含むヒートポンプ(15kW)2基を地下に設置、暖房費は年間1000スイスフラン未満(13戸+オフィス全体)。

■ エネルギーと環境
太陽光発電+蓄電池を活用し、冬以外は自給可能。
採熱管や空間全体でエネルギー効率を最大化。

研究者の評価では、最高ランクの省エネ基準の半分のエネルギーしか消費していない。
認証はあえて取得せず、建物そのものが「結果」としてエビデンスを持つという姿勢。
■ 社会性・居住性・コスト設計
家賃はユニット制(1ユニット200スイスフラン)、テラス部分は室内の50%価格で算定。
キッチン吸気・浴室排気による効率換気。消費電力はわずか200Wで、1時間あたり500㎥の換気。
「足るを知る生活」を実現するために、住宅コストを抑えつつ、高機能を提供。
建設期間はわずか8ヶ月。ルール設計と部材の合理化により、短期施工を実現。
■ 総括
「シェアラウム」は、空気・温度・構造・コスト・人間性を包括的にとらえた全く新しいZEB型集合住宅の先駆けです。特に空調と建築空間を統合設計したケーゲルシステムと、木造×規律的建築手法×社会哲学の組み合わせは、住宅の未来形を示しています。

特に感じた事は、いかに太陽光や再エネルギーを使って部屋を快適な温度に維持するか?ではなく如何に何もしないで(空気の対流や部材だけをを使って)部屋を快適にするかに主眼を置かれており新しい発想だと思った。

大量消費から自然に任せて分に応じた生活への転換。

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