3度目の紫波町②(オガール保育園)〜雪国・紫波で出会った「裸足の保育園」〜
岩手県紫波町。冬になれば氷点下の空気が街を包み、雪が静かに降り積もります。
しかし、その駅前に広がる「オガール」エリアの保育園に一歩足を踏み入れ、最初に目に入ったのは、床一面に並ぶ長靴の数々。はじめ私は「中古の子ども用長靴を販売しているのか?」と思いました。しかしそれは、雪遊びを終えた子どもたちの靴。(乾燥中)なぜ、これほどの暖かさが実現できるのか。
1.床下に仕込まれた“魔法”
この保育園の暖かさの秘密は、隣接するエネルギーステーションにあります。
地域の木質チップを燃料とするバイオマスボイラーで熱を生み出し、冷温水として周辺施設へ供給しています。木質チップは週に数回、トラックで運び込まれます。地域資源を地域で循環させる仕組みです。

そして園舎の床下には、厚い断熱材が敷き詰められています。そこに温められた空気(あるいは温水)が循環し、床面そのものが大きな暖房装置となる仕組みです。(”オンドル”と呼ばれています)
足元からじんわりと全身を包み込むような暖かさ。これはエアコンの温風とはまったく異なる体感です。単に「暖かい」のではなく、建物全体が安定した”快適な”暖かさを実現しています。

2.廊下を消した設計思想
さらに驚かされたのは、一般的な学校や保育園には必ずある「廊下」が、この施設にはほとんど存在しません。部屋から部屋へ直接移動する流動的な空間構成になっています。廊下という移動専用の空間を排除することで、面積を最大限に保育活動へ活用し、視線の抜けを確保し、死角を減らす事が出来ます。0歳から5歳まで139名が在籍する大規模園において、この設計は空間の豊かさを生み出しています。
3.光を落とす吹き抜け
奥行きのある建物は、どうしても中央部が暗くなりがちです。しかしこの保育園では大胆な吹き抜けを設け、光の通路をつくっています。建物の深部まで柔らかな光が届きます。光は、子どもの生理的・心理的健康に欠かせない要素です。暖かさと明るさ。この二つが揃ってこそ、冬でも縮こまらない環境が生まれます。
4.10年続く公民連携モデル
この保育園は、町が建設し、横浜の民間企業が運営するPPP(公民連携)モデルです。今年で9年目、来年には10周年を迎えます。職員40名、園児139名。遠く横浜の専門ノウハウと、紫波町の地域エネルギー。この2つの地域の連携が、10年にわたり子どもたちの成長を支え続けています。
5.感じたこと…
今回の視察で私が強く感じたのは、建物の性能・温度の快適性が、子どもの行動を変える。という事実です。
冬でも裸足でいられる自由。
廊下に縛られない空間の連続性。
隅々まで光が届く安心感。
これらはすべて、とことんまで人々の快適性を考えた設計の力によって生み出された価値です。
6.袖ケ浦市に置き換えたとき
公共施設は「建てればよい」のではありません。どう建てるかで、その街の未来は変わります。袖ケ浦市もまた、エネルギーの集積地です。工業地帯の排熱、地域エネルギー、断熱性能、ZEBの本質。
オガールは、次世代公共建築の一つの方向性を示しています。もし私たちのまちの保育園や学校、庁舎が冬でも裸足で過ごせるほど快適で、光と熱がやさしく循環する空間だったとしたら――
そこに集う人々のライフスタイルはどう変わるでしょうか。雪国の「裸足の保育園」は建築とは単なる器ではなく、「子供たちの未来をつくる」装置であることを教えてくれました。

