【スイス視察報告】⑨〜バーゼル郊外に誕生する最先端の環境配慮型オフィス「Hortus」〜

スイス北西部の都市バーゼルは、国際空港を備えた交通の要衝であり、ノバルティス社、ロシュ社、日本の武田薬品工業などが集積する世界有数のバイオテクノロジー都市です。そのバーゼル近郊に、2024年末完成予定の持続可能性を極限まで追求した木造5階建てオフィスビル「Hortus(ホルトゥス)」が建設されています。

このプロジェクトは、スター建築家ユニット「ヘルツォーク&ド・ムーロン」と、粘土版築技術の第一人者マルティン・ラオホとのコラボレーションによって実現されたものです。建物全体の86%を木材と粘土の複合構造(半築木造)で構成し、コンクリートの代わりに粘土を構造材として使用。この粘土の75%は近隣地域から調達され、輸送による環境負荷も最小化しています。

施主である「センデベロップメント」社の開発責任者、ダヴィッド・ヴァルター氏(社会学者・コミュニティマネジメント専攻)は、不動産開発を通じて「人と空間の関係性」に着目。元々は市民病院跡地であり、市民農園として使われていたこの16地区の再開発においては、地域と環境に根差した都市再生が重視されています。

Hortusは単なる環境建築ではありません。建材・設備の製造・廃棄に至るまでライフサイクル全体でのCO₂排出を徹底的に検証・削減し、太陽光発電によって30年間の建物運用で建設時に要したエネルギーを回収する設計です。屋根・ファサードに合計3,200枚のソーラーパネルを設置しており、自家消費量の倍の発電能力を誇ります。

地下室を設けず、蓄熱性能の高い粘土壁や破砕した瓦を用いた床構造により、遮音性・断熱性を確保。建材は混合せず接着剤の使用を極力避けることで、将来的な解体・再利用(サーキュラーエコノミー)を見越した設計となっています。床下には、かつての瓦を砕いた砂利代替材を利用するなど、地域資源の再活用にも力を入れています。

また、入居予定のスタートアップや大学のイノベーション部門、医療機関(PIIE:子どもの免疫研究機関など)にとって、研究・交流・実証の拠点ともなる場所。ラボ機能は、空間の可変性・共有スペースの効率性を重視した設計で、500㎡程度の面積で通常の800㎡分の機能をカバー。キッチンやトイレも共有とし、共同利用による空間とコストの最適化を図っています。

「オフィスビルの多くが空室を抱える時代にあって、働く場そのものを魅力的にする」──この思想のもと、空間デザインには快適性と人の交流を促す工夫が盛り込まれています。たとえば、水曜日の在宅勤務が多い傾向に合わせて、利用ピークを調整する仕組みも採用。さらに、館内にはベジタリアンレストランも設けられ、企業活動のなかに持続可能性を浸透させる「暮らし方」としてのオフィス像が描かれています。

Hortusは、バーゼルという地震帯に位置しながらも、地震対応型の木造・粘土建築として、環境建築の新たな一歩を示すプロジェクトです。これは単なる「建物」ではなく、気候危機と共生する「社会的モデル」の具現化でもあるのです。

こちらが最終日の最後の視察になります。今回一貫しているのがどこの建築も「心地よさ」「自然との融合」を追求している点。以前、海外にスキューバダイビングのライセンスを取りに行った時、イタリア人から「水中の中ではPortion(位置)が重要だ。心地よいと思える状態を常に作る事が重要」と言っていた言葉を思い出す。ただソフトバンク時代には「どんな状況でも環境変化にも適合していけない人は生き残れない」と言う実体験もあるのでこの2つの指針を大事にしていきたい。

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