能登半島視察(射水市)〜ハザードマップの「想定外」を越える〜
「ここは安全なはずだ」——。県のハザードマップで「やや液状化しにくい」と判定されていた地域が、激しい液状化の深淵に沈んだ。令和6年能登半島地震は、その信頼に冷酷な現実を突きつけた。
富山県射水市。最大震度5強を記録したこの地で、人々の信じていた「安全」は脆くも崩れ去った。揺れの継続時間が極めて長かったことが砂地盤の液状化を深刻化させ、発災からわずか30分後には最大79cmの津波が襲来。屋形船が沈没するなどの実害が相次ぎました。
なぜ、事前のリスク評価はこれほどまでに現実と乖離したのか。
激しい被害を受けた港町地区を詳細に分析すると、現在の地図では穏やかな住宅街ですが、100年前、この場所は波が打ち寄せる広大な「砂浜」で約95年前から段階的に埋め立てられ、今の姿になったとの事。
「事前のリスク評価の限界と、地歴調査に基づく実地対策の重要性が浮き彫りとなった」と報告書は記しています。地層のサンプリングデータだけでは捉えきれない、土地の成り立ち。射水市の事例は、真の防災とは最新のシミュレーションのみならず、その土地がかつて何であったかという「歴史の深掘り」が重要だという事を、重い教訓として私たちに突きつけました。
大規模な震災復旧において、行政は通常、責任の所在を分散させ客観性を担保するために「学識経験者による有識者委員会」を設置します。しかし、射水市はこの鉄則をあえて踏襲しませんでした。
委員会を設ければ、調査項目は膨大になり、合意形成には膨大な時間を要する。被災者が一日も早い生活再建を願うなか、行政にとっての「正解」を求める手続きが、住民にとっての「時間」を奪う。この矛盾を打破するため、市は大学教授等から個別の技術助言は得つつも、最終的な判断と設計の主導権を市が握り続ける「市主体」の手法を選択しました。
復旧を阻むもう一つの壁は、膨大な事務手続きです。射水市は2024年2月という極めて早い段階で、全国に先駆けて「早期確認型査定」という新制度を導入しました。これは単なる事務の簡素化ではなく、技術者不足を補うための「戦略的な制度」です。
全国で初めて取り入れた「早期確認型査定」
この新制度による効率化の実態は、以下の通りです。
詳細積算の不要化: 「前査定」段階での詳細な積算を不要とし、現場の疲弊を最小限に食い止めた。
手戻りの根絶: 前査定の合意内容を後査定へ直結させ、計画の修正ややり直しをほぼゼロに抑制。
直接サジェスチョンによる円滑化: 早期段階で国の査定官から、液状化に伴う地割れの復旧範囲などについて現場で直接的な「技術的助言」を獲得。この判断を即座に受託コンサルタントと共有することで、詳細設計への移行をシームレスにした。
この「事務手続きの合理化・効率化」により、被災から設計・工事着手までの期間は劇的に短縮されました。技術リソースが限られる地方自治体にとって、このスピード感こそが最大の住民支援です。
射水市が下した最大の、そして最も「非常識」とも言える決断は、港町地区で採用された「地下水位低下工法」です。地下4.5mに集水管を敷設し、地下水位を地表面から3.0m以下に保つことで、将来の地震による再液状化を防ぐ抜本的な対策です。
特筆すべきは、その「コスト」と「対象」の対比です。対象となるのはわずか41世帯。そこに投じられる総事業費は約18億円。単純計算で1世帯あたり約4,400万円という巨額の公費です。経済合理性や「コスパ」という物差しで測れば、集団移転を促す方が遥かに安上がりであるという冷徹な議論も、行政内部で当然あり得たはず。
しかし、市はあえて「居住継続」の道を選びました。背景にあるのは、住民の7割がこの地での生活を強く望んだこと、そしてこの地に根付く「曳山(ひきやま)祭り」に象徴される伝統文化の維持です。行政が守ろうとしたのは、単なるインフラではなく、土地に刻まれたコミュニティというのが人間くさい。。
市は住民に受益者負担を求めず、年間約400万円に上る今後30年間の維持管理費も全額負担することを決定。効率性のみを追求する現代社会において、行政が「地域文化を守る」という責任を、18億円という数字をもって証明したのが今回印象的でした。
射水市の震災復旧は、30年間にわたる維持管理と、その先にある設備更新という「未来の課題」を引き受ける覚悟とともに進められています。この事例で学んだ事は復興における真の正解とは「何を大切にして街を再建するか」という一番重要な要素を学んだ気がします。
ハザードマップの限界を認め、地歴に学び、手続きの壁を壊し、経済合理性を超えて地域の希望を守る。私たちは、単なる数字や効率性ではない「守るべき価値」を、何を基準に決断を下すべきか。射水市が示した事は、合理性を突き詰めつつ、人間性、コミュニティを重視した決断を尊重したいと思います。


